Chico/Chico's Diary

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Chico's Diary

A series of diary entries written by Chico published by Compile in their magazine, Disc Station as a promotion for Puyo Puyo~n.

第1回 「フクロイヌの月 12日」

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第1回 「フクロイヌの月 12日」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑 & なみへい

急に目の前が広がって、色とりどりの風船が浮かんだ空が目に飛びこんできた。こんなに大きい風船(しかもたくさん!)は初めてだったから、私はしばらくそれを眺めていたみたい。

「チコ! チコ!」 私を呼ぶ声がしてふっと振り向いたら、おばあさまがコワ~イ顔をして立っていたの。 私のうちは代々続く「巫女」のカケイとかで、いつもおばあさまと二人で巫女になるためのお勉強をしてるんだけど、今はその時間。どうやら居眠りしちゃって夢を見ていたみたい。だってもう空に風船は浮かんでないもの…

実は昨日の夜、部屋の窓をあけたら突然カガミネコのこどもが入ってきたの。カガミネコっていうのは人に未来を見せるって言われているめずらしい生き物で、私も初めて見たから、ついつい夜ふかしして遊んじゃったの。だから居眠りしちゃったのね。

お勉強はキライじゃないんだけど、おばあさまがあんまりうるさく叱るから、「眠くなるのは"自然のセツリ"だわ」って、昨日教わったばかりの言葉で反撃したの。そしたら、おばあさま呆れちゃったみたい。えへ。

でも私思うの。あの夢はきっと、カガミネコが見せてくれた未来なんだって。 またすぐに、あの風景にあえるんだわって。

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第2回 「ひさしぶりの晴れの日に」

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第2回 「ひさしぶりの晴れの日に」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

この数日間ときたら、も~最悪だった。とっても大きな嵐がやってきて、何日も家から外に出れなかったの。

しかもそれをいいことに、おばあさまったらいつもより長くお勉強させるんだもの。こうもお勉強ばっかりじゃヤル気も出なくなっちゃうわよね。

でも昨日、お勉強の最後におばあさまが話してくれたことは、ちょっとだけワクワクするお話だったわ…

…7年に一度だけ、ちょうど今頃の季節に大きな嵐がやってくる(昨日まで続いてた嵐がそれね)。私が生まれてからまだ2回しか来ていないというその大嵐は、はるか遠い東にあるという大陸から、いろいろな"来訪者"を運んできてくれるという…

嵐もすっかり止んだ今日、私はひさしぶりに外に出かけた。気分をすっきりさせたいこんな時には、丘の上にある神殿跡へと出かけるのがイチバン! まだちょっとだけ風が冷たい季節なんだけど、この辺りは一年中いつでも緑色の草原が広がっている、私のお気に入りの場所なの。雨があがった後の草原は、いつにも増して緑がとってもきれいなんだけど、思いっきり寝転がれないことだけが残念ね。

そのきれいな緑色のじゅうたんの上に、ふと小さな黄色い羽をみつけた。何だろう?と思って拾ってよく見たら、それは何かの植物の種みたいだった。いままで見たことのない種だったから、きっとこれがおばあさまの言っていた"来訪者"なのねって、そう考えたら何かすごくうれしくなっちゃった。 遊びに行けないから今までずっとイヤだと思っていた嵐のことも、ちょっとだけ好きになったような気がしたの。

きっとこの種もいつか…そのほうがずっと楽しいと思ったの。

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第3回 「期末?試験大作戦」

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第3回 「期末?試験大作戦」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

今日はとっても大事な日。日頃のお勉強の成果を試す試験の日だった。

実は、いつものお勉強のときはカッコイイ魔法なんかは教えてもらえない。ちょっとしたオマジナイみたいなものは時々教えてもらえるんだけど、 それなりに威力のある魔法はきちんとした基礎を身につけてからじゃないと危ないからって言われて、普段は教えてくれないの。 だからこうやって時々試験をして、私がきちんと基礎を身につけているっておばあさまが認めてくれたときに、初めて魔法を教えてもらえることになっている。

で、今日の試験の結果はなんとかOK!さっそく新しい魔法…今回は稲妻を呼ぶ魔法なんだけど…に挑戦したんだけど、これがなかなかうまくいかないの。 まあ最初っからうまくできるなんてことはまずないんだけど、いつまでたってもうまくいかないもんだから、とうとうおばあさまが重い腰を(本当に重そうなのよね)あげてきたの。

呪文はその意味をしっかり考えて唱えなければいけないんだよって、おばあさまはしつこく言うんだけど、私だってそんなことわかっているわ! でもどうしてもできないんだもん。仕方ないから言うことを聞いて、おばあさまの後に続いて呪文を唱えることにしたの。 「…太古の神よ…」 おばあさまが目を閉じて(普段から開いてるのかどうかわからないけど)そう唱えると、杖の先の宝玉が静かに輝き出したの! うぅぅ、私だって負けていられないわ。 「…太鼓の神よ…」 やっぱり雷さまっていったら太鼓よね。…アレ?

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第4回 「新しい友達」

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第4回 「新しい友達」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

NAMIHEI
今日はかわいいお友達、ううん、素敵な家族ができた記念すべき日だった。

トドリの木の実のようにきれいな黄色い体に、ちっちゃい角と翼をつけたドラゴンさんだ。 ドラゴンは決して想像上の生き物じゃあないけど、どこにでもいるっていうわけでもない。遠い空の上や険しい山奥、深い海の底など、 普段は決して人目につかないようなところに住んでいるの。まあこれは全部おばあさまの受け売りなんだけどね。 体は私なんかよりもずっと大きいんだけど、ドラゴンの世界でいったらまだまだ子供なんだろう。 背中についている翼もちっちゃいし、本当に飛べるのかしらって思うくらい。

私がドラゴンさんに会ったのはいつも遊んでいる森の外れ。 初めて見たドラゴンにもびっくりしたけど、もっと驚いたのはドラゴンさんの見つめる先…空に大きな島みたいなものが浮かんでたこと。

ドラゴンさんの大きな青い目が何となく泣いてるように見えて、私ピンときたの。ドラゴンさんは、 きっとあそこからやって来て帰れなくなったんだろうなって。 子供のドラゴンの翼じゃあそこまでは帰れないんだろう。だから私、ウチにおいでよって言ったの。 あなたがあそこまで飛べるようになるまで。

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第5回 「道草のススメ」

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第5回 「道草のススメ」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

NAMIHEI
今日はおばあさまに頼まれて薬草を摘みに行ってきた。

薬草は薬として使うだけじゃなくって、実はお料理に使うことも多い。 体にいいからっていうのはもちろんなんだけど、実はちょっとしたお料理の隠し味なんかにもなる。 特にこの雪解けの季節にしか採れないっていわれている薬草は、すごく香りがいいから私も大好き。 だから、いつもだったらちょっとメンドウだな~って思っちゃうようなおつかいでも、 今回はガンバリがいがあったわ。

お目当ての薬草が生えている山はとっても高いんだけど、薬草が採れるのはけっこう低いところなので大丈夫。 去年まではおばあさまと一緒に採りに行ってたんだけど、 「今年は一人で行けるかい?」 って聞かれたから、 「うん」 って言ったの。私だっていつまでもコドモじゃないし、おばあさまも山登りはたいへんだろうしね。 薬草がたくさん生えているのは私が登って来たほう、まだ雪の残っている山の北側。 ほとんど雪の積もらない南側には、この薬草はあんまり生えないし、生えていても薬としての効果が弱いんだって。 それにこの山の南側は急なガケが多くて危ないから、おばあさまにも行ってはダメって言われていた。 だから去年もおととしも、そしてその前もずっと、山の南側には行ったことがなかった。 でも、行ってはイケナイって言われると、余計に行ってみたくなるものよね。

薬草を採ったところから、また少し登って山の南側にまわった。地面は確かにゴツゴツしていて恐かったけど、 それよりもそこから見えたたくさんの湖が、すごくきれいでステキだった。湖って近くでなら見たことがあったけど、 山の上から見下ろすと、また全然違う感じがした。 景色をぼーっと眺めていたら、突然バサバサっという音がして、たくさんの鳥たちが目の前を通り過ぎていった。 ちょっとびっくりしたけど、鳥たちが飛ぶ景色はさらにキレイで、来てよかったって思った。 言いつけもたまには破ってみるものね。…

帰りの時間が遅くなったから道草したのがばれちゃって、おばあさまに叱られたんだけど、 顔はあんまり怒ってないように見えた。今日はおばあさまの気持ちが何となくわかったような気がしたわ。

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第6回 「夜の森の精霊」

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第6回 「夜の森の精霊」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

今日は、森の向こうに住んでいるおばさんの家までおつかいに行った。

おばさんの家はちょっと遠いけど、行くのはとっても楽しみ。だっておばさんの焼くパイはとても美味しいから。 今日のパイもいつにも増して美味しかったんだけど、あんまり遅くまでおじゃましちゃってたから、 帰りに森をぬける前に暗くなってしまったの。いつも遊んでいる森なんだけど、暗くなるとやっぱりちょっと怖い。 突然ゴソゴソって音がしたらドキッとして、ふと「夜の森の精霊たちは、臆病な心を見つけるとイタズラをするんだよ」っていうおばあさまの言葉を思い出した。 だから急いで帰ろうと思ったんだけど、何度も歩いているはずのこの道で、何と迷ってしまったの。ああ、これが精霊の仕業なのね。

家に帰れなくなったらどうしようって困っていると、草むらのほうからぼんやりした光が飛んできた。ホタル…にしてはちょっと大きいその光は、 私の目の前で何度か揺れるとまたふわふわと飛んでいった。 それが何となく私を誘っているように見えたから跡をついていったの。しばらくして家の明かりが見えてホッとしたわ。 あれはきっと親切な精霊さんね。ありがとう。

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第7回 「いつもいっしょ」

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第7回 「いつもいっしょ」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

ドラゴンさんとお友達になってからイチバン変わったことと言えば、なんといっても今までよりもたくさん遊びに出かけるようになったことね。

ドラゴンさんはまだ子供で翼が小さいから、 がんばって飛ぼうとしても「飛んでいる」というよりも「浮いている」というほうがピッタリな感じなんだけど、 いざ走るほうとなると、これが見かけによらず結構速い。 今までだったら、おばあさまとのお勉強が終わる頃にはもう陽が傾きはじめちゃってたから、 その日は遊びに行くのはあきらめてたのんだけど、ドラゴンさんがウチに来てからは天気のいい日は毎日一緒におでかけするようになった。

ドラゴンさんの背中に乗せてもらうと、いつもよりも高い視界になってちょっとだけ新鮮な感じがする。そこでさらにドラゴンさんが走り出すと、 まわりの景色がびゅんびゅんと飛んでいってとっても気持ちいい。私を乗せてもこれだけ速く走れるんだから、 子供といってもドラゴンってすごい力持ちなのね。あ、断っておくけど私はそんなに重たくないからね、多分。

今日はお勉強もお休みだったし天気もよかったので、ドラゴンさんと一緒にちょっと遠くまで遊びに出かけた。 私を乗せているときのドラゴンさんはとっても楽しそうなので私も何だかうれしい。 これが親友ってものかしら、なんて思ってギュッと抱きついたら、ドラゴンさんは私のほうに振り返って、私はほっぺたをなめられちゃったの。

ちょっと前に一日がかりで薬草を採りにきた山のふもとまであっという間に着いてしまったので、 今度薬草を採りに来るときはドラゴンさんと一緒に来ようと思った。ううん、薬草採りだけじゃなく、できるだけいっぱい一緒にいようと思った。

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第8回 「また新しい家族?」

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第8回 「また新しい家族?」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : 戸部淑

ここ何日か暖かい日が続いたと思ったら、今日はちょっとだけ冬に逆戻り。でも、こうやって少しずつ春らしくなっていくものらしい。

最近いつも一緒にいるドラゴンさんは、今日は森の向こうのおばさんの家までおばあさまのお供。 正確に言うと、最近めっきり足腰が弱くなったおばあさまをドラゴンさんが乗せて行ったの。 こんな風にとっても役に立ってくれるドラゴンさんはおばあさまにも気に入られたみたいで、もうすっかり家族の一員って感じなのよ。 そんな訳だから今日は久しぶりに1人で遊びに出かけた。私は日当たりのいい原っぱに出ると、まだ少し冷たい地面に腰をおろして思いきり背伸びをした。 やわらかい風が羽根飾りを揺らす。ふと、地面に座っている私の足の上にチョンと何かが乗った。 私のヒザの上でかわいらしく鳴いていたピンク色の生き物は、その体に似合わない小さな羽根とクチバシを見つけることができなかったら、 きっと鳥だってわからなかったと思うわ。そのくらい「まんまるだった」のよ。

私のヒザの上でかわいく鳴くのをしばらく聴いていたんだけど、まだ小鳥みたいなのに1羽だけでいるのは、変だなって気がついたの。 ひょっとしてドラゴンさんのように親とはぐれてしまったのかもって思って、私、もしそうだったらまた新しい家族が増えるわって期待しちゃったの。 そしたら次の瞬間、小鳥さんは小さな羽根をはばたかせて飛んでいってしまったの。 それでちょっと残念だな~って思った自分に気がついて、私は今までちゃんと小鳥さんやドラゴンさんの立場で考えてなかったことがわかったの。 今日ドラゴンさんが帰ってきたら謝っておこう。

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第9回 「お掃除の敵」

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第9回 「お掃除の敵」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : TOBE SUNAHO

NAMIHEI
お勉強の時間が終わって、今日もまたいつものようにドラゴンさんと遊びに行こうとしたら、 ふいにおばあさまに引き止められた。

「いつも使ってる部屋なんだから、たまには自分で掃除しなさい」だって。 確かにこの部屋は最近少しホコリっぽい。私は早く遊びに行きたかったんだけど、 とりあえず言う通りにお掃除をしてからドラゴンさんのところに行くことにした。 おばあさまの言うことはごもっともな話だし、ここでおばあさまを怒らせると後がコワイしね。 お掃除は高いところから、という鉄則に従ってまずは本棚から。本棚にはいつも勉強に使っている本から、 どこの言葉で書かれているのかさえ解らないような本まで、いろんな本が並んでいる。 よく見るとその中に一冊だけ、背表紙に何も書かれてない不思議な本がある。 少し気になって掃除の手を少し休め、その本を手に取ってみると、どうやら何かの物語らしい…。 …しばらく読みふけってから、お掃除するのをすっかり忘れていたことに気が付いた。もう外は少し暗くなっている。 大慌てでお掃除をしてすっかり待たせてしまったドラゴンさんのところに行くと、ドラゴンさんは待ちくたびれて寝ちゃってたの。 明日はドラゴンさんと一緒にこの本を読もう。そう思って、私もドラゴンさんの隣でちょっとひと休みした。

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第10回 「水遊び」

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第10回 「水遊び」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : TOBE SUNAHO

NAMIHEI
だいぶ暖かくなってきたので、今日はドラゴンさんと一緒に湖まで出かけた。

今の季節はあまり水が多くないんだけど、もう少したって季節が夏になる頃には、今立っている場所が水の中になってしまうくらいに水が増える。 ずっと遠くの山々に積もった雪が解けて流れてくるからなんだよっておばあさまは言うんだけど、 私はまだ本物の雪を近くで見たことがない。 うんと寒い冬の日に、遠くの山のテッペンが白くなっていたのを見たことがあるだけ。 おばあさまが言う「一面の銀世界」というのを一度は見てみたいと思う。 湖につくと、さっそく靴を脱いで浅瀬に足を入れてみた。水はまだまだ冷たくって泳ごうなんて気にはとてもならないんだけど、 頭のてっぺんまでスッキリして気持ちいい。ドラゴンさんはというと、水が苦手なのかそれとも冷たいのがイヤなのか、全然湖に入ろうとしない。 私がしつこく誘ったので、おそるおそるシッポを水につけようとするんだけど、 水面をピチャピチャさせるだけでなかなか中に入れられないでいる。 その様子がおかしかったからしばらく見ていたら、急にビクっとして逃げていった。 何だろうと思って目をこらして水中を見ると、小さなお魚さんたちがたくさん泳いでいる。 どうやらドラゴンさんがシッポを入れたのを、エサが落ちてきたとカン違いしたお魚さんがつついたみたい。 すごく困った顔をしているドラゴンさんの顔がまたおかしかったので、 すごく失礼だなぁと思いつつも笑ってしまった。

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第11回 「訓練」

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第11回 「訓練」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : TOBE SUNAHO

NAMIHEI
おばあさまとのお勉強の時間が終わったらドラゴンさんの訓練に付き合うのが、最近の私の日課になっていた。 何の訓練?って、もちろん空を飛ぶための訓練に決まってるわ。

高い空の上にあるドラゴンさんのおウチ(…と私が勝手に思っているだけなんだけど)に帰るためには、 言うまでもなく、そこまで飛んでいかなくっちゃいけない。それなのに初めて会ったときのドラゴンさんときたら、翼をバタバタさせてもほんの少し浮き上がることしかできなかったの。 だから私、ドラゴンさんがきちんとおウチに帰れるように、飛べるようになるまで一緒に訓練しようと思ったのよ。 昨日まではずっと失敗続きで、何度やっても私の腰の高さくらいまでしか浮き上がれなかったんだけど、今日はちょっとした秘策があるの。 それは坂道を利用して思いっきり助走をつけること。これならドラゴンさんも飛べるようになるかもしれないわ。 私とドラゴンさんは近くの丘に登った。そして呼吸を整えると、今登ってきた斜面をふたりで一気に駆け降りたの。 足がもつれそうでちょっと怖かったけど、思った通りスピードがグングン出る。これならイケル!って思って後ろを振り返ったら、ドラゴンさんがいない! だけど私は地面に映った影を見逃さなかった。やった!って思ってすぐに視線を上げると、案の定ドラゴンさんは空を飛んでいたの。 でも次の瞬間、それはまっすぐ落っこちてきて…あやうく私も下敷きになるところだったわ。 どうやら坂道で足がもつれて転んじゃったみたい。 まだまだ先は長そうね。ゆっくりやりましょ。

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第12回 「巫女の初仕事」

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第12回 「巫女の初仕事」 TEXT : かむきひ

CG ILLUSTRATION : TOBE SUNAHO

NAMIHEI
言うまでもないことだけど、私たち巫女の一族の大切な役目のひとつとして「神殿を守る」ということがある。

神殿には色々な宝物が納められていて、特に神殿の一番奥にある宝玉には望むものを何でも与えてくれるという言い伝えまである。 これを狙う盗賊も昔はいたらしい。 そこで代々の巫女、つまり私のおばあちゃんやひいおばあちゃん達は、 神殿に結界魔法をかけて盗賊が入れないようにした。この魔法は強力で、巫女がいない時でも神殿を守ってくれるんだけど、 太陽が欠ける「日食」の日だけは巫女がいないと結界がなくなってしまうという欠点があったの。 そして今日は日食。今まではおばあさまのお役目だったんだけど、今日は初めて私がその役目をやらせてもらえることになった。 ただ「いるだけ」だし、最近は盗賊もいなくなって安全だって聞いてたから、私は喜んでお役目を引き受けた。 結界の力が弱くなるから、とドラゴンさんと一緒にいられなかったのは残念だったけど、 私にも「巫女」らしい仕事ができるのかと思うとうれしかった。 本当に何事もなくただ時間だけが過ぎて、 これなら何か起こってくれたほうがいいなぁ、なんて思ったのがいけなかったのかしら。入口のほうから女の子の声(それも複数)が聞こえてきたの。 どうしよう!って思ったけど、私も一応「巫女」だし、頑張って神殿を守らなくちゃって勇気を振り絞って待ち構えたの……。

……その後のお話はみんな知ってるよね。勝手に神殿を離れておばあさまには叱られちゃったけど、 私の「巫女」としての初めての日は、とても素敵な一日になった。

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